開催報告
注目企画の報告と参加された方の声

2005年10月2日(日)
舘野泉ピアノリサイタル 〜左手の作品による〜

東京文化会館小ホール

至福の時

 ステージを囲むように扇形の客席が650席、満員の小さなホールいっぱいにあたたかい空気が満ち、心にしみこむようにピアノの音が響き渡る。はじめの一音にかたずを呑んで集中する客席、そこから広がる音の波は、もう片手も両手もまったく関係なく聴く人の心をぐんぐんとらえていく。曲が終わるとひと呼吸おいて、さざなみのようにわきあがる拍手。その拍手のあたたかさ。拍手にうなずきながら舘野さんの晴れ晴れとしてゆったりとした笑顔。幸せな空気がホールに満ちていく。ピアノひとつでこんなに幸せな気持ちになれるなんて。ホールを後にする人たちもそれぞれに心にひろがる思いを言葉ではとても言い尽くせないという表情でした。

演奏された曲

タカーチュ: トッカータとフーガ Op.56

 ハンガリーの作曲家、タカーチュの“北欧で秋の終わりから冬の初めにかけて、霧の降る朝に見られる風景も連想される”と舘野さんは表現しています。

スクリャービン: 左手のための2つの小品 Op.9
前奏曲
夜想曲

 左手の高度な技術が要求されることから、両手で演奏されることも多い。「弾いていても手が一本であるか二本であるか忘れてしまうほど音楽の力を感じさせる」と舘野さんは書いています。まさに美しい名曲。

林  光: 花の図鑑・前奏曲集(世界初演) ピアノ(左手)のために
FLORAL BOOK・PRELUDES for Piano, Lefthand

 林光さんが舘野さんのために書き下ろした世界初演曲。“古今の詩人たちに歌われることによって独特の光をあびた花々をめぐるちいさなエセー集”とあります。花のタイトルは8つ、ヒメエゾコザクラ、イヌタデ(あかまんま)、イヌノフグリ、サンザシ、ハス、ツリフネソウ、フキ、ノイバラ。決して派手ではないこれらの花々に秋山清、中野重治、与謝野晶子、宮澤賢治など8人の小さな詩が添えられています。さまざまな変化にとみ、どこか親しみを感じさせ、多彩なイメージをふくらませてくれます。

ノルドグレン: 小泉八雲の『怪談』によるバラードII Op.127(舘野泉に献呈)
振袖火事
衝立の女
忠五郎の話

 舘野さんと親しいフィンランドの作曲家ノルドグレンが舘野さんのために作曲した曲集。思わずぞくっとするような力強さや時に繊細な響きが印象的です。

ブリッジ: 3つのインプロヴィゼーション
夜明けに
夜のお祈り
酒宴

 イギリスの作曲家ブリッジのこの3曲は、舘野さんの長男でヴァイオリニストのヤンネさんが演奏旅行先で楽譜を見つけ、持ち帰ったという曲です。この曲に出会って、舘野さんは初めて左手の曲を弾く喜びを知ったという、いわば演奏活動に復帰する大きな勇気を与えた作品です。

当日のアンコール曲:
リパッティ:「ソナチネ」より第2楽章

 ルーマニアのピアニストであり作曲家
シュールホフ:「左手のための組曲」よりアリア
 チェコのユダヤ人作曲家で強制収容所で亡くなっています。

 今回のコンサートはチラシが出来る前からたくさんの反響があり、チケットは6月1日の発売とほぼ同時に売切れてしまいました。
 ピアノ、ホール、聴衆、演奏者のコンディション、すべてが最高に整っているコンサートというのはけっして多くありません。でもこの日はほんとうにすべてが素晴らしく思えました。「いい聴衆でした」「ピアノもホールもとても良かった」と舘野さんも感慨深げでした。

 舘野泉さん、聴きにきてくださった皆さんに心から感謝申し上げます。そしてチケットが手に入らずお聴きいただけなかった皆様には心からお詫び申し上げます。いつの日かきっとまたと夢が広がっています。

【会場アンケートより】

かけがえのないコンサートでした。舘野さんは「左手のピアニスト」ではありませんでした。全身から音楽があふれ、楽譜をめくる右手も歌っていました。林光『花の図鑑』は芸術への深い思いが底流となり、この上ない美しい響きに感動しました。舘野さんの作品への共感が伝わってきました。スクリャービン作品に新しい歌をみつけたこともうれしいことの一つでした。

初めて聴くピアノ曲ばがりでしたが、非常に感銘をうけました。重厚な音、はげしい音、華麗な音、繊細な音、非常に音色が豊かで、すばらしかったです。

音楽は右手があっても無くても、その人自身の表現なのだということを感じさせて下さいました。ありがとうございます。北欧が癒しなのか、舘野さんが癒しなのか、その音は私の心を癒してくれます。はるばる沖縄から聴きに来ました。是非、沖縄でもお願いしたいです。

舘野さんは素晴らしいピアニストです。音がとても澄んでいて、深い気がしました。夫は「行ったことはないけれど、フィンランドの湖のような演奏だった」と言っていました。舘野さんのピアノへのまっすぐさや、喜びが伝わってきました。林光さんの曲が素敵でした。舘野さんがステージにもどられたことに心から、よかったです!!ありがとう!!といいたいです。

澄んだ温かみのある音色で、今までピアノは両手で弾くものと思っておりました先入観が打ち消されました。ダイナミックですばらしい演奏でした。舘野さんがおじぎをされる時の満願の笑みに、こちらまで幸福な気落ちになりました。演奏会までの並々ならぬご努力、こちらまで頑張らなくては…と本当に励まされました。

言葉につくせない感動でした。音楽のことがわかるわけでなく、ただただひとつずつの音を聞くしかできないのですが、そこからくる何かが自分にひびくのです。深いひびきでした。


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